身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
咄嗟に逃げようとしたが、その男は「待ちなさい」と海里の背中に声を掛け引き留めた。
腕を組み堂々と立つ男は迫力があり、海里は怒られるのだと勝手に決めつけて、その場から逃げようとした。けれど、後ろから聞こえた声には、怒りの様子は全くなく、穏やかな声音だったのだ。
初芽と同じ雰囲気を感じ、海里は思わず足を止めて、彼の方を振り向いてしまった。
「おまえの名は何というのだ?」
「……海里」
「海里。おまえは、初芽と仲良くしてくれているのだろう。話は聞いている。銀髪の男など始めは不安でしかなかったが、初芽が楽しそうにしていると、女中から話していたよ」
海里が屋敷に忍び込んでいるのがばれていたのだ。それなのに、それを黙って見ていたという事なのだろう。
どうして自分というよそ者が勝手に入っていることを怒らないのか。海里にはわからず、困惑した表情で男も見つめた。
すると、海里の顔をみて気持ちが伝わったのか、男は申し訳なさそうに笑みを浮かべた。その笑みは悲しさと諦めが感じられ、海里をますます混乱させた。
「初芽が自分の食事を君に与えてしまうのは困るがね。今度からは、君の夕食も準備しておくから、毎日来てくれて構わない。………あと少しの命だ。楽しんで食事をして欲しいんだよ」
「え………さ、最後って……どういう事っっ」