身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~





 いつものように話さなければならない。それなのに、初芽と何を話せばいいのか。いつもはどんな話をしていたのか。それが、わからなくなってしまった。

 そんな様子を見て、初芽がおかしいと思わないはずもなく。彼女は不安そうに海里を見た。


 「何かあった?」
 「別に……」
 「絶対何かあったでしょ?ま、まさか、お父様に会ったのね!?」
 「………」
 「その反応は当たりね。まさか、お父様に怒られたのかしら?銀髪の事はお父様は気にしないだろうけれど……屋敷に勝手に入ってしまったことかしら?」
 「大丈夫だよ。怒ってなかったから」


 時々咳き込みながら、初芽はそう話をする。けれど、彼女の事を直視出来ず、視線を外しながら曖昧に返答を繰り返す。
 それがまずかったようだ。勘を働かせた初芽は、海里の気持ちをすぐり理解してしまった。


 「………お父様から、私の病気の聞いたのね。死んでしまう事も」
 「そ、それは………」
 「いいの。自分の体ですもん。お父様が話をしなくてもわかるのよ。もう長くはないという事が………」


 苦しいのは咳のせいなのか。
 初芽の今までで1番の苦しい顔を見た。
 何故、彼女が苦しみ死ななければいけない?
 優しくて、笑顔がきれいで、屋敷の外に憧れをもつ彼女を。
 どうして、神様は助けてくれないのか。

 神様は苦しんでいても、誰かが困っていても、助けてくれない。そんな事は海里が一番知っている。
 だからこそ、自分が彼女を笑顔にさせたいと思っていた。それなのに、どうして。
 
 そんな疑問だけがわいてくる。
 それに答えがないのはわかっているのに。




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