身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~





 「ねぇ。海里が持っているものはなに?」
 「え。あぁ、これは、その・・・初芽にお土産………」


 初芽の父親に会い、思いもよらない事を告げられた事で、彼女のために買ったものを渡すのをすっかりと忘れてしまった。
 手に大切に持っていたそれを初芽に渡すと、彼女は目をキラキラさせて受け取ってくれた。


 「お土産!?……これは何かしら?ガラス細工?」
 「町に売ってたんだ。飴細工っていって、お菓子だって」
 「これがお菓子?すごいわね……キラキラ光ってて、氷みたいに綺麗だわ」


 木の棒についた飴を見つめて、そういう初芽はすぐに笑顔になった。そんな彼女の姿を見て、海里は安心する。こうやって落ち着けば話も出来る。彼女が死んでしまうなんて、嘘ではないか。そう思ってしまう。

 初芽に渡した飴細工は、桜の花の形だった。
 店に並んでいるのを見て、すぐに彼女にぴったりだと思ったのだ。名前にも笑顔にも、そっくりだと思い。桜色の飴を選んだのだ。


 「これは、お花ね。ピンク色で桜みたいね」
 「春になったら桜見に行こう」
 「え………」
 「少し離れた古城に桜並木があるって聞いたことあるんだ。そこに行こう。俺が連れていくから」
 「……無理よ。もうほとんど歩けないのに」
 「俺が絶対に連れていく!だから、そんな事言うなよっ!!」
 「桜を見るまで諦めるなよ。見れば元気になるだろ?」
 「…………海里は強情だなー」


 海里の強い言葉に、初芽は降参と言わんばかりにくすくすと笑いながら、そう言うと泣きそうに笑ったのだ。


 「初芽だって、強情だ」
 「そうかしら」


 冗談を言い笑い合う。
 それなのに、どうして以前のように心から楽しいと思えないのだろうか。
 心なしか初芽も悲しそうだ。

 こんな他愛ない幸せな時間。
 それが限りあるものとなった。




< 164 / 200 >

この作品をシェア

pagetop