身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「俺が死ぬから。だから、初芽の病気をなくしてくれよ」
だからこそ、こんな言葉がぽろりと口からこぼれた。
1度言葉にしてしまえば、気持ちも大きくなる。
どうか、神様。
自分の命はどうなってもいいので、初芽を助けてください。
彼女だけは、守りたいのです。
そう強く強く祈った。
どれぐらい目を瞑っていたのだろうか。海里の頭や肩に雪が積もり始めた頃だった。
ふわりと冬とは違う、土や葉の香りと温かい風が初芽の肌を撫でだ。
春の風だ。
そう感じて、目を開けると、一片の桜の花びらがひらひらと舞っていたのだ。
それはゆっくりと風にのって、ゆっくると離れていく。海里は花びらに向けて咄嗟に手を伸ばした。
「待って……!」
そうやって一歩足を動かすと、花びらはもう1つ増え、また一歩歩くと3つになる。
歩く度に花びらが増えてくるのだ。この先には狂い咲きの桜でもあるのではないか。そんな風に思い、海里は足を速めた。桜の花を見れば初芽も喜び、元気になるのではないかと思ったのだ。
寒くはない、不思議な雪景色の中、海里は必至に桜の花びらを追いかけたのだった。