身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
どれぐらい走ったのだろうか。
短くはなかったが、特別長いわけでもなかった。海里の呼吸が少し荒くなる前に、いつの間にか目の前の景色が一転していたのだ。
先程までの銀世界はなくなり、目の前には立派な桜の木がずらりと並んでいた。
そしてその木々からは、耐える事なくたくさんの花びらが舞っている。この世のものとは思えない神秘的な景色に、海里は恐怖さえ感じてしまうほどだった。
ぶるりと体を震わせた時だった。
「どうした、銀色の子よ。寒いのか?それとも、ここが怖いか?」
「っ!!」
艶のある女性の甘ったるい声が突然この空間に響き、海里はビクッと震わせた。
すると、その反応を見たのだろう女が「怖らなくてもいい」と、笑いを含んだ声でそう言った。その言葉と共に、海里の目の前にゆっくりと女性の姿が浮かび上がってきた。
豪華な着物はまるで、どこかの姫君のように華やかだったが、着方は全く持って姫君ではなかった。気だるげに肩を出して着崩すしており、そこから見える肌は驚くほど白かった。
紅をひいた唇は、笑みを浮かべており、切れ長の黒い瞳と長い髪の毛はとても艶めいており光りを発しているようにさえ見えた。若い女性ではあったが、その佇まいはとても堂々しており、海里は後退りをしてしまいそうになった。
そして、いつの間にか、女の足元には沢山の金貨が落ちていた。いや、敷き詰められているといっても過言ではないほどの量の金貨があったのだ。