身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~





 咳のせいで、呼吸が出来ず、海里は混乱した。そして、同時に胸が焼けるように熱く、ひりついていた。
 これが、初芽を苦しめていた病。
 それを海里が身代わりに引き受けたのだとわかった。
 彼女はこんな苦しさと共に生きていたのだ。それを実感して、海里は涙が溢れた。

 咳が止まらず、その場にうずくまる。体を横にすると少し楽になり、海里は涙を流し、両手で胸を押さえながら、うっすらと目を開けた。

 すると、目の前に桜姫が、笑顔でこちらを見ていた。苦しんでいる海里が近くにいても全く心配するどころか、とても嬉しそうににんまりと笑っているのだ。


 「桜姫…………?」
 「ふふふっっ………はははははっっ!!あーーー、やっと終わるわ!死人の生活から解放されるっ!!」
 「ごほっ……はーはー………え………どういう事………」


 高笑いをした桜姫は真っ白な素足でこちらにゆっくりと近づき、海里の顔を撫でた。それは恐ろしいほどに冷たく、雪のようだった。


 「私はもう300年死人として生きた。生きていた時の家族や友達はみんな死んだ。身代わりの依頼がない時は、一人で孤独に生きて、そしてただ人間の願いを叶えるだけ。お金なんてもらっても意味がないわ」
 「じゃあ………」
 「そうだ!私は身代わり依頼の仕事をやめたかった。でも、やめられなかったわ。ずっと方法を探していたけど、最近気づいたの。代わりを探せばいいんだってね!私があの人から力をもらった時のように」
 「…………あなたはどうなるの?」
 「本当の意味で死ねる。そうすれば、あの人にも会える。この夜は、死んでも生まれ変わって別の人となって生きていくのだから。だから、きっと私はまたこの世界に人間として生まれ変わるのだ」
 「生まれ変わる…………」



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