身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~




 文月は昔から心臓が悪く、体の弱い子どもだった。入退院を繰り返し、幼稚園や学校には1年も続けて通えた事がなかった。
 始めこそ看病をしてくれたけれど、全く治らない病気に途中で挫折し、「金ばっかりかかる」と、見舞いにもほとんど来てくれなかった。来たとしても、「面倒な存在」という目で見るだけで、心配してくれる素振りなどなかった。けれど、両親がお金を払ってくれなければ治療は出来ない。新しい薬も高額なものが多いのだ。それについては、感謝していた。



 「おや。起きたのかい?」
 「あ……おばあちゃん」


 文月が目を覚ますと、祖母が椅子に座り微笑んでくれた。それだけで、文月は笑顔になる。


 「おばあちゃん。私、お散歩に行きたい!」
 「そうだねー、行こうか。けれど、ごはんを食べて薬を飲んでからだよ」
 「わかった」


 優しく語りかけ、病気の心配をしてくれて、毎日お見舞いに来てくれる。そんな祖母が、文月は大好きだった。
 祖母との時間が1番だった。



 「寒くないかい?」
 「大丈夫だよ。おばあちゃんこそ、寒いんじゃない?」
 「ありがとう。寒くないよ」


 病院の中庭を散歩する。
 緑に囲まれた場所には至るところベンチが置いてあり、他の入院患者も多かった。退院や一時帰宅なども出来ない人たちは、外に出るとなるとこの場所しかないのだ。そのため、日中は人が多くなる。
 ベンチで休憩しながら、文月は祖母との時間を楽しんだ。穏やかでゆっくりとした時間が大好きだった。



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