身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「初芽。入るぞ」
「お、お父様。どうぞ」
「まだ起きていたのか?病気が治ったとはいえ、体は休めないといけないぞ」
部屋の外から声がして、ゆっくりと襖を開けて入ってきたのは、海里もあった事がある男性。やはり初芽の父親だったようだ。父親は、そういうと、初芽が座る座布団の前の飴を丁寧に避けた後に腰を下ろした。
「………眠れないのか?」
「はい。やはり信じられなくて。自分の病気が急に治ったのはいいことのはずなのに。何故か胸騒ぎというか。ざわめくような気がするのです」
「そうか。この飴の送り主は、おまえの知り合いではないのか?」
「飴屋の主人が「知らない女が、屋敷の娘に送ってほしい」と、大量の金を置いて行ったというのは聞いているのですが。とても綺麗な方だったらしいのですが、………私には思い当たる方はいらっしゃらないのです」
「そうか。病気の完治とたくさんの飴の贈り物。不思議な事ばかり起こるな。………けれど、全ては悪いことではない。病状がなくかってから1週間。私は初芽がこうやって元気になってくれて事が本当に嬉しいのだ。だから今は奇跡を感謝して過ごしていこうではないか」
優しく語り掛ける初芽の父親だが、まだ彼女は納得していない様子で、その言葉に頷こうとはしなかった。
傍で2人の話を聞いていた海里は、1人ホッとしていた。
初芽の様子を見て病気がよくなったのはわかったが、本当に完治したのかはわからなかった。だが、2人の会話から、それの心配は杞憂だったとわかったのだ。
彼女はこれから病魔におびえて暮らす事はなくなるのだ。そう思うと、自分が誇らしく思えた。大切な人を守れた。それが、何よりの知らせなのだ。
自分は彼女を無事に守れた。
それを確認出来ただけで、海里は満足だった。
あとは遠くから彼女が幸せに過ごす事を見守りだけだ。