身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
海里は、初芽の目の前に座ると、ゆっくりと腕を伸ばし、彼女の体を抱きしめた。
初芽の体に触れる事も出来ない。触れてしまえば、海里の体は初芽の体に入り込んでしまう。
けれど、それでもいい。
海里は少しだけ初芽の体に透け込むように。そして、彼女の涙が止まるように抱きしめた。
感じるはずのない、彼女の体温が伝わってくるような気がして、海里の瞳からは一筋の涙がこぼれた。その涙も彼女の体を通って床に落ち、すぐに消える。
「海里、私はあなたからもらった命を賢明に生きるわ。でも、いつか会いに来て。そして、ここではない世界で一緒に行きましょう。そう願う事だけは許して」
その言葉は彼女の口から出たものなのか。それとも心の中の声なのか。
海里にはわからなかった。
けれど、その言葉を海里は忘れるはずも、断るはずもなかった。
初芽と海里の願いは同じ。
海里は、初芽が泣き疲れて眠ってしまうまで、優しく抱きしめ続けたのだった。