身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
冷たい、彼の感触。
それがもう少しで消えてしまうと思うと、胸が苦しくなる。彼がいない世界で自分は過ごしていけるのかと不安に押しつぶされそうになってしまう。そして、目の前でまっすぐに文月を見る彼の瞳が揺れる度に、もう彼に会えない事を考え怖くなる。
けれど、それももうおしまいにしなければいけない。
文月は、ジッと彼を見つめ返した後に目を閉じた。大丈夫、もう彼の姿は目にも記憶にも焼き付けた。
「じゃあ、始めるぞ………」
「はい。…………桜門さん。いえ、海里さん。私はあなたに出会えて本当に幸せだった。好きという感情がこんなにも心を幸せにしてくれるなんて知れてよかった。そして、優しくしてくれて、私を救ってくれた人が海里さんでよかった。大好きです。だから、生まれ変わった海里さんにまた会いたいです。その時は、恋人になってくださいね。………1回だけでいいから。約束です………ね?」
海里が桜姫から聞いたという生まれ変わりの話。
生まれ変わりが本当にあるのならば、寂しくない。身代わりの仕事をこなしながら、生まれ変わって現世に甦った桜門を見守れるのだから。
彼が初芽を見守っていたように。
きっと海里は初芽という女性に会う旅にでるのだろう。だから、文月が身代わりの任を終えて現世に戻ってきた時。たった1度だけ。そう願った。
「文月、………ありがとう。おまえは、本当に変わらない。優しくて、強くて、本当に綺麗だ…………」
「………桜門さん?」
彼の言葉は不思議だ。
まるで、ずっと見て来てくれたように聞こえるのだから。