身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
その日の仕事帰り。
毎日寄り道をしている場所に、文月は今日も訪れていた。もちろん、場所はあの城門前だった。あの日から欠かさず毎日訪れている。そして、桜の木があったとされる場所に向かって手を合わせる。そして、心の中で話しかけるのだ。
きっと、桜門はずっとみてくれているはずだ。けれど、文月の前に姿を現さない。けれど、ここならばきっと会いに来てくれると信じている。
あの日、桜門は100回目の身代わり依頼を終えた。桜姫は100回やれば終わるのではないか、そう言っていたがきっとそれは嘘であったのだろう、と文月は思っていた。桜門の話では桜姫は300年生きたと言っていた。そうなればきっと優に100回は超えていたはずだ。桜門との取引を成功させるためについた嘘なのだろう。きっと、桜門自身も嘘だとわかっていたはずだ。けれど、それを信じながら過ごしてきたのだろう。偽りでも終わりがなければ、やっていけない仕事なのだろう。
彼は100回目の取引で、少し気が急いていたようだった。それぐらいその時を待ちわび、そして不安だったはずだ。そうでなければ、いつものように身代わり依頼を受ける際の宝石を白銀から貰い忘れるはずはないだろう。
そして、彼はどうしてあんなにも沢山の宝石を身に付けていたのだろうか。それを考えているうちに、フッと思ったことがある。宝石はあの飴に似ていると。キラキラと光る飴細工に。
そんな風に思っては、微笑んでしまう。
「桜門さん。私は身代わり依頼が全て正しいことなのか……今でもわかりません。けれど、私はあなたに2回助けてもらってよかったと思っています。だから、あなたの事を許していますよ」
身代わり依頼は悲しみを生むのかもしれない。残された人は戸惑いと他の人の犠牲から成り立つ幸せで、苦しくなる事もあるはずだ。
けれど、その人の愛のかたちでもある事に少しずつ気づくのだ。
そうすれば、この愛された命で必死に生きて幸せになろうと思えるのだ。いや、1人の人に大切に思われていると身をもって実感出来たことがすでに幸せなのだろう。
だからこそ、文月は2回も桜門に生かされた。いや、200年前から何度も彼に守られてきたはずだ。