身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
1話「命日の夢」





   1話「命日の夢」



 綴文月(つづりふみつき)は、どんどん風景が変わっていく車窓を見つめながら、何度目かわからないため息を溢した。
 今年最後の一月。苦手な冬が到来してしまった。文月は窓からの冷気を肩に感じながら、窓側の席に座るんじゃなかったな、と内心後悔した。

 平日の昼間とあって電車は空いており、文月はボックス席を独り占めして座っていた。けれど、電車には1時間も乗っていないで降りてしまう。あと1駅だ。高層ビルはなくなり、今は住宅街や田んぼや畑が目立つ場所になってきた。見慣れた景色になってくる。と、言っても最近の事だが。

 文月は右手の中指にある青色の大きな宝石が付いた指輪に触れる。ひんやりとした石と金属の感触だが、何故だか温かみがあるような気がするからこの指輪は不思議だ。


 「おばあちゃん、今会いに行くからね」


 文月のそんな天へ向けての言葉は電車の音でかき消されてしまう。けれど、それでいい。その場所に聞いて欲しい人はいないのだから。






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