身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
駅に降り、近くの花屋でお供え用の花を買う。祖母は青い花が好きだったのでユウゼンギクを買った。文月はそれを持って高台にある墓へと向かう。傾斜が大きいので、登り終える頃には体温が上がり、首のグレーのマフラーを取ってしまう。
ようやくたどり着いた祖母の墓。
文月は笑顔で「おばあちゃん来たよ」と挨拶をした。
今日は祖母の命日。
文月は有休を使い、この日にはいつもこの場所に訪れていた。文月は、祖母が大好きだった。今は元気だが元々は体が弱かった文月。それを心配して、よく見舞いに来てくれたのだ。厳しい両親とは違い「可愛いねー。頑張っているね」と声をかけてくれる。それが嬉しかった。祖母にだけは甘えられたのだ。
前に来た時の花は色がわからないほど枯れていた。文月は墓の掃除をし、新しいユウゼンギクを飾り、手を合わせる。
「いつも見ててくれてありがとう。また、会いに来るね、おばあちゃん」と、声を掛けて文月はジッと墓を見つめる。
自然と手はあの指輪に触れている。
大粒のブルーダイヤモンドの指輪。これは、祖母が文月に残したものだった。祖父と祖母はとても仲良しで、結婚指輪の他にも同じ指輪をしていた。それがこのブルーダイヤモンド。祖父が早くに亡くなり、祖母は祖父がしていた指輪を身に付けていた。その代わりに自分がしなくなった指輪をこっそり文月にくれたのだ。
「今、私がしている指輪は必ず私と一緒に焼いて頂戴ね。約束したのだから。だから、残りはあなたにあげる。文月も青が似合うわ。笑った顔があの人にそっくりだもの」
祖母が亡くなる少し前に、文月にそう言い残したのだ。
「おばあちゃん、約束ってなに?………どうして、死んでしまったの?」
ずっとずっと考えている事だった。
何故、祖母が死ななければいけなかったのか。病気などしたこともない、元気だった祖母が、まるで身代わりなるように同じ病気になるなんて。
そんな問いかけに答える人など、もちろん誰もいないのだから。