身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「ただいま」
久しぶりの実家。
けれど、文月にとって安心したり落ち着くといった気持ちにはならない。どちらかというと緊張する。
「あら、今日帰る予定だったの?」
「おばあちゃんの命日だから」
「あぁ………もうそんな日か」
「ご飯作ってないわよ」
「食べてきたからいいよ」
文月を一目見た両親は、すぐにテレビや新聞に視線を戻す。
1年ぶりに帰ってきたのに、そんなものだった。元々、文月には関心がなかった。そう、文月自身には。
けれど、何かを思い出したのか、母はまたくるりとこちらを向いた。その瞳はキラキラとしている。
「ねぇ、ボーナス出たんでしょ?」
「うん……これ」
そう言って文月はバックから封筒を取りだし、両親が居たリビングのテーブルに置く。すると、2人の目の色が変わった。
「やった!明日旅行に行く予定だったのよ!これで豪華な食事出来るわ」
「半分ずつ分けるんだからな」
「わかってるわよ」
そう言って、封筒の金を取りだし、ワイワイと子どものように騒ぎ出した。そんな両親を尻目に文月は無表情のままリビングを出た。上るたびにギシギシと軋む音がする階段。2階には2部屋があり、1つが物置でもう1つは文月の部屋だった。
自分の部屋のドアを開けると、ほこりっぽい空気と、開けっ放しのカーテンの窓が出迎えてくれる。
もう冬なので、すっかりと日が暮れている。文月は窓を開けて、そこから顔を出す。
文月はただただ呆然と星を眺めていた。
昔と同じように、「早くここから逃げだしたい」と。