身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
『今日の夜も来るか ケーキというものが食べたい』
そんな短文が並んでいた。絵文字などスタンプもないシンプルなメッセージ。
それが桜門から本当に届いた事に文月は驚きを隠せなかった。
帰る間際、桜門に「助手へ連絡する時はスマホにメッセージを送る」と、言われたのだ。文月は死人がスマホを使いこなすなど想像もしていなかったので、かなり驚いて「持っているんですか?」と聞くと、かなりのドヤ顔で文月に自分の持っているスマホを見せてくれた。最近買ったものなのか、新品のようにも見えた。「少し前の依頼主がくれてな。金もそいつが払ってるらしい」「え?!お金も請求されてるんですか?」「されたとしても、あの男が払ってくれると言われたのでもらうことにしたんだ。新品を買って、燃やしてもらった」という会話を、文月は唖然しながら交わしたのだ。
けれど、まだ使い方はわからないのか、文月がお互いの連絡先の交換の仕方を彼に教えて、無事に登録を完了した。
「ではこのお礼に家まで送ろう。連絡が来たらまた会いに来い」と彼が言うと、文月の周りに桜の花びらが舞い上がり、文月を包んだ。そして、桜吹雪に吹かれ、目を閉じる。風の気配がなくなり、恐る恐るに目を開けると、真っ暗闇の実家の自室に居たのだった。
瞬間移動という事象や桜門からのメッセージ。昨日から摩訶不思議な事が起きており、何を信じればいいのかわからない。けれど、実際に起きている事なのだから、信じざるおえないのだ。
文月は、桜門に『わかりました。美味しいケーキを買っていきますね』と返事をすると、すぐに既読になり『わかった』とだけ返事が返ってきたのだった。
文月は地元で有名なケーキを今のうちに買ってこなければ、とすぐに出掛ける準備をした。桜門の所へ向かうのは夜なのだから、お店が開いているはずもないのだ。
外の空気は今日も刺すように冷たい。
けれど、文月は不思議と出掛けることが億劫になる事はなかったのだった。