身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
姫白は、大判のストールとバックだけ持って店の外へと小走りで向かう。本当はそんなに酔ってはいないがあの話題を終わらせるためには、あの場から逃げるしかないと思ったのだ。
外に出ると、空気がひんやりとしていた。体が一気に冷えてしまい、姫白は思わず体を震わせた。今日は天気が良く、星が良く見える。街中でも星が見えるのだから、快晴なのだろう。
「はぁー………もう少ししたら帰ろう」
「なんだ、帰るの?」
「え………黒夜くん」
独り言だと思っていた言葉に、後ろから返事が聞こえる。振り返らなくてもわかる懐かしい声。姫白はゆっくりと振り返る。
そこには、黒夜が立っていた。優しいけど少し俺様な自信家な彼は、爽やかな笑みを浮かべながら、小さく手を挙げながら姫白に近づいてきた。
「寒いだろ。上着着るか?」
「だ、大丈夫。このニットワンピース暖かいから……」
可愛くない言い方。
素直に甘えれば女らしくて可愛いのかもしれないけど、そんな恥ずかしいこと出来るはずもなかった。
同窓会のために買った細身のニットワンピース。体のラインが出るものだが、裾はふんわりとしている。くすんだピンク色が可愛くて買ったものだ。試着しながら考えたのは、黒夜の事だった。少しでも可愛いと思ってくれるかな。そんな浅はかな昔の自分の考えが、今はとても恥ずかしい。