身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
気づいた頃には、もう夏になっていた。
そして、黒夜との約束を果たせなくなった事を考え、愕然とした。
仕事をしながら頑張ればよかったのかもしれない。疲れてもトレーニングをすれば、どこかで続けられたかもしれない。
けれど、出来なかった。
SNSで、黒夜が作品を更新する度に評価をされているのを見て、姫白は胸が絞めつれられる思いがした。
黒夜とはもう住む世界が違うのだ。
もう関わる事とない相手なのだ。
自分は小さな街の小さな本屋で、ひっそりと生きていく事に決めたのだから。
それが悪いことでもない。やりたいと思っていたことであるし、大切な父の店を継ぎたいとも思っていた。
「だから………これでいいの」
そう、呟いた後、姫白は高校時代の友人の連絡先を全て削除し、スマホも全て新しいものに変えた。SNSだって、登録を削除した。
これで、黒夜とはさようならだ、とその日の夜はひっそりと一人で泣いた。
一人で住むには大きな家は、その日もとても静かだったのを姫白は今でも覚えていた。