身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
2人で桜並木に到着すると、以前と同じように桜門は桜の花びらの絨毯に腰を下ろした。
そして、ポンポンッと隣りの地面を叩いた。
文月に座れと言っているのがわかり、文月はドキッとしながら「……わかりました」と返事をして隣に座った。もちろん、少し間隔を空けて。けれど、それを彼が許すわけもなく、桜門はすぐに距離をつめてきた。
「俺の助手はまだ奥手らしい」
「……そんなにすぐに慣れませんよ」
「身代わりの事も、か?」
「………今日が初めてでしたから」
「どうだった?」
「………戸惑いの方が大きかったです」
桜門は、文月の様子を見かねて、話しを聞いてくれているようだった。
「まだ身代わりはなかった方がいいと思っているのか?」
「………わからないです。おばあちゃんに死んでほしくなかった。その気持ちが大きすぎて。………それなのに、篝さんを見て何だか心がざわついたんです」
「……ほう……」
「あんなに必死になって大切な人を守って。そして、自分の苦しさよりも相手の無事を嬉しいと思い笑える。そんな姿を見たら……わからなくなってしまいました」
「あまり考えすぎるな。自分の気持ちに素直になれ。まだ許せないのなら許さなくていい。きっと、わかってくれる日がくるのだろうならな」
そんな風に自分を慰める彼を見上げる。
すると、両耳にあの真っ赤なピアスをつけている。耳にはすでにたくさんの宝石がついているが、それでも姫白のピアスも身に付けているのだ。
彼にとって宝石はどんな意味があるのだろうか。
そう気になって声を掛けようとした。
「おい………姫白に妙な魔法を使ったのはお前だな」
桜門の声ではない、低い男性の声が聞こえ文月は驚いてそちらの方を向く。
すると、そこには若く少しがっちりとした体型と爽やかな表情の男が、怒った様子でこちらを睨み付けていた。桜門とは違うタイプの美形であった。桜門は中性的だが、彼は男らしい雰囲気だった。
依頼主だとも思ったが、篝の名前が出てきたのですぐにわかった。
姫白が助けた男だった。