身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「死者は何でもありなんだな」
「死んだ人間の特権だ。それに、君に殴られたくないからな。けれど、ここに来れた事を称えてお前の願いを聞いてやろう。叶えるかは、それから考える」
桜門は腕を組んで、そういうとそこにどかっと座り込んだ。シャランッと宝石と金属が重なる音が響いた。
黒夜は、鋭い視線のまま桜門を見つめる。
桜門の後ろに居た文月だったが、どうすればいいのか迷いながらも、立ったまま黒夜の話を聞く事にした。
「…………あの事故は俺が遭ったものだったはずだ。車に接触する直前と、泣いてるあいつの姿をおぼろ気だが覚えているんだ。それなのに、目が覚めたら自分は無傷で道に転がって、変わりに文月が大怪我をおっていたんだ。おかしいだろ?なんで、あいつが変わりに怪我しなきゃいけないんだよ」
「それがおまえの身代わりを望む理由か?」
「あぁ、そうだ。俺の怪我は俺が貰うのが普通だろうが。それの何が悪い?どうして、文月の願いになって、それを俺にも聞かずに変えてしまうなんて」
この人は、自分と同じだ。文月はそう思った。
勝手に助けられた。
そんなのを求めてなどないのに。
何で、そんな事をしたのか?そんな事をしても、自分が切なくなるだけ。
相手の気持ちがわからない。
……そして、大切な人が傷ついてほしくなかった。自分のせいで、苦しんで欲しくなかった。
そんな黒夜の気持ちが痛いほどわかり、文月は胸を手で抑えてギュットコートを掴んだ。
気持ちが溢れて痛くなる。心が痛いと体も痛くなる。そんな言葉を身をもって実感してしまっていた。