身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「それだけの理由か?ならば、その願いは叶えることは出来ないな。話は終わりだ、帰れ」
「なっ……んだと!おまえが勝手にやったことだろ!?さっさと元に戻せっ!」
ズカズカと足早にこちらに向かってくる。
これでは、また桜門に場所を移動されてしまう。それか、この桜並木から追い出してしまう事も考えられた。
文月は、そう思うと足が動いていた。
「ま、待ってくださいっ!!」
「……なんだよ。おまえは……」
文月は、桜門の前に立つと、黒夜をジッと見つめた。自分でもこんなに気持ちが動いたのは驚きだった。
けれど、どうしても彼に伝えたい事があったのだ。
「姫白さんはすぐに彼を助けようとしました。あなたの怪我を見て、怖がることもなくあなたを抱きしめて、そして桜門さんが教えた身代わりの事をすぐに受け入れたんです。絶対に痛いし苦しい……そんな事をわかっていたはずなのに、自分の事を考えるよりも黒夜さんの事を考えてました……」
「……だからって……勝手に怪我を治すなんて、迷惑なんだよ」
「彼女はあなたの絵が描く人だから。繊細な絵を描く人だから、と教えてくれました。だから、腕を失ってはいけないのだと」
文月は、黒夜の右腕は見つめた。
怪我1つない、正常に昨日する右腕。
それを、姫白が守ったのだ。
そう思うと、文月でさえも苦しくなる。当人はもっとそうなのだろう。
頭では、「あなたと同じ気持ちです」と叫びたい。けれど、声になる言葉は反対のものだった。何故か、姫白の気持ち……祖母の気持ちになっているのだ。