身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 「黒夜さんも、姫白さんの事、大切なんですよね?……だからこそ、こうやってここに来たんですよね?」
 「……俺の気持ちを勝手に決めるな」
 「……でも、先ほどから桜門さんの事を非難しますが、姫白さんの事は1度も責めていません」
 「…………」 
 

 桜門の身代わりの力は、桜門が勝手に行った事ではない。
 全て依頼主が決めたことだ。今回ならば姫白になる。そんな彼女を黒夜が1度も「あいつが勝手にやった事で迷惑だ」とは言わなかった。
 その気持ちは何故だろうか?そう考えた時に、彼女のその気持ちこそは彼にとっては迷惑ではなかったのではないか。そう、文月は感じたのだ。

 守りたいけど、守られたくはない。
 自分のせいで、苦しみを感じて欲しくない。
 そんな気持ちがひしひしと感じられたのだ。


 「おまえに何がわかるんだ……」
 「わかります。……私もあなたと同じ身代わりの力で助けられた人間だから」
 「………」


 文月は思わず苦笑してしまう。
 話すつもりなど全くなかったはずなのに、何故か話したくなってしまった。
 目の前の黒夜という男の表情が、寂しげに見えてしまったからかもしれない。強い口調で睨み付ける表情は、苦しさや悲しさを隠すためのようにさえ見えたのだ。

 同じような人がいる。
 それを知ってほしいと思った。
 同じ傷口を舐め合うのではなく、相手の気持ちを考えて欲しい、と。
 ……それは自分自身への言葉でもあるようだった。



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