身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「私の話になりますが……私もまだ、あんな事をして欲しくなかった。こっちが惨めになるだけだった。そんな風に思います。……けど、自分を守ろうとしてくれた気持ちは、嬉しかったんだって。ぐじゃぐじゃした気持ちが少しだけ変わって。理解しようと思ったんです」
文月は、背の高い黒夜を見上げて、ぎこちなく微笑みかけた。
「……私と一緒に桜門さんを許せるように、頑張りましょう。……身代わりの力は何故あるのか。そして、もし自分がその力を使ったとき、相手にどんな風に思って欲しいのか。……それを考えるのが近道のような気がしています」
「…………今は到底許せる気はしないけどな」
「同感です」
フッの黒夜の雰囲気が穏やかになり、体の力が抜けたように笑った。
それを見て、彼の気持ちが少しは動いてくれた。文月はそう思って、2人で笑い合った。
「早く俺の事を許してくれ。折角力を使ったのに、感謝してもらえないと寂しいからな」
「……おまえを許したいとは思わないからな」
「まぁ、それでもいい。俺は文月に許してもらえればいいからな」
「………こいつ自分勝手すぎないか?」
「勝手にここに入ってきたお前には言われたくない」
桜門と黒夜は、その後も何かと言い争いをしていた。仲が悪そうに見えるけれど、桜門は何故か楽しそうにも見えた。
桜門の助手として彼の隣に居れば、これからも身代わり依頼を受ける人、そして助けられる人を見ていくことになるだろう。
それを見ていけば、祖母の気持ちがわかるのではないか。
文月はそう思った。