身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
自分でも不思議だった。
最後の言葉の時、自然と笑みがこぼれたのだ。
ずっと誰にも言えず、もちろん黒夜にも伝えられなかった思い。
約束を破ってしまった。それに、彼は有名な画家で、自分は夢を諦め、何の取り柄もない。そんな立場が違う相手なのだから、見向きもされない。そう思っていた。
………黒夜がそんな人間ではないとわかっているのに。
「…………腕、見せて」
「え………」
突然、黒夜が姫白の患者服の右袖をめくってくる。そこには何もないとわかっているが、服を捲られてしまうと、さすがにギョッとしてしまう。けれど驚いた表情の姫白を見ても黒夜はそれを止める事はない。
そして、姫白の袖をすべて捲った。
そこに現れるのは、肩から巻き付けられている包帯。そして、腕が切れている部分だった。
姫白でも、それを見ると心が締め付けられる。本当に失くなってしまったのだと嫌でも見なければいけなくなる。
けれど、黒夜は姫白以上に苦しそうに表情を歪めていた。
「……黒夜………」
「………俺はこの時の激痛を知ってる。……それをおまえが受けたんだろ……?痛かっただろ……」
「それは……その……痛かった……けど、すぐに気を失ったから」
姫白は咄嗟に嘘をついた。
事故の衝撃も受けずに突然傷だけを貰ったのだ。姫白は誰かに腕を折られ切られているような感覚に襲われ、激痛から大きな叫び声を上げてしまったのだ。それを思い出すだけで吐き気を覚えるほどだった。
「そんな顔で言われても説得力ないだろ。嘘つくな………」
「………ごめん………」
「正直、勝手な事してんじゃねーって怒鳴りたい。俺がお前を助けたかった。苦しい思いをさせたくなかった。……それなのに、おまえの思いが桜門って奴を呼んだろ?そして、身代わりに俺を助けてくれた。………俺を心の底から助けたいって思ってくれたんだろ?」
「それは………」
「俺は少し霊感あるのは知ってるだろ。だから、桜門のところに行って直談判してきた。身代わりの力で姫白の怪我を受けとりたいって………。けどダメだった。してもらえなかったんだ。………きっと、俺の恐怖をわかってるんだろうな」
「………え?」