身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
文月は、本棚から探し始めた。
祖母の本棚からは文月と幼い頃読んでいた絵本や昔のアルバム、そして文月の病気について書かれている本などが出てきた。祖母がどれほど自分を思っていたのかを改めて感じることが出来る物ばかりで、文月は胸が締め付けられるような思いを感じていた。
そんな時だった。1番下にあった桜模様が描かれた漆塗りの小箱を開けた瞬間に、その思いは驚きに変わった。
古びた和紙が何枚も重なって入っており、それには筆で書かれた達筆な文字が書かれていた。それは祖母が書いたものだと文月はすぐにわかった。見慣れた文字。達筆で読みにくいはずだが、文月はすぐに宛名がわかった。
「桜門………。桜門って名前なの?」
そんな疑問がつい声に出てしまう。
不思議な名前だと思いながらも、上包みを取り式辞の時の紙のように折られている手紙をゆっくりと読むと、それが名前だとよくわかった。
そこには、桜門様へと書かれていたのだ。
『桜門様へ
秋になりましたね。きっとこれがあなた様へ書く最後の手紙になるでしょう。あなた様と出会えて、私は本当によかったと思っています。私の願いを叶えてくれて、感謝しています。ありがとう』
祖母は桜門という人物を慕っていたようで、感謝の言葉が綴られていた。やはり、友人などへの渡せなかった手紙なのだろう。文月はその相手に届けないな、と思いつつ、その手紙を閉じようとした。が、その後の文字を見た瞬間に立ち上がっていた。
文月はコートとマフラー、スマホと鍵。そして、先程の桜門という人物に宛てた和紙の手紙を握りしめて家を飛び出していた。