身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「.....っっ!」
「待ってっっ!!....ゴホゴホっ....」
文月が起きた事で、その男の子はその場から走り去ってしまった。それを止めようと、大声を上げた瞬間に、咳き込んでしまう。
上手く呼吸が出来なく、胸に手を当ててながら、咳を繰り返す。
呼吸が出来なくて苦しい。死んでしまいそうだ、とパニックになってしまう。けれど、こんな時こそ落ち着くのが1番大切なのだと文月は知っていた。
大丈夫。すぐに収まる。だから、じっと耐えるの。
そう自分に言い聞かせて、咳をし続ける。
すると、また先程の温かさを今度は背中に感じる。
涙目のまま、文月がうっすらと目を開けると、そこには先程の男の子が居た。
どうやら咳をしている文月に気付き、戻っていてくれたようだった。
「.......」
「....ありがとう」
無言で優しく背中をさすってくれる男の子の優しさが、背中から伝わってくる。
彼がどんな表情をしているのかわからない。
けれど、人の温かさが文月にとって何よりも薬になると知っていた。
お礼の言葉は伝えると、手が一瞬だけ止まった。
返事もなく、男の子がその場から動く気配も感じない。けれど、また背中をさすり始めてくれる。
きっと、男の子は微笑んでいるのだろう。
その場の雰囲気が明るくなったのを感じ、文月は安心して瞳を閉じた。