政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 ゆっくりと起き上がり、頭を下げると感極まり、涙がポロッと零れ落ちた。それと同時にまた陣痛に襲われる。

「痛っ」

 うずくまると、お母さんは震える声で言った。

「未来は本当にあなたの母親にそっくり。自分のことより他人のこと。誰かの幸せを願える真っ直ぐで素直な子なのね。……未来に言われなくても、生まれてくる子供は主人と敬一とは繋がりがあるんですもの。可愛がるに決まっているでしょうっ……!」

 痛みに耐えながら顔を上げると、お母さんは泣いていた。

「だから無事に元気な子を生んでちょうだい」

「お母さん……」

 初めてお母さんの泣いている姿を見て、涙を止める術を失う。

 陣痛よりも胸が苦しくて痛い。

「泣き止みなさい。もうすぐ母親になるのだから」

「は、い」

 だけどお母さんに涙を拭われたら、すぐには泣き止めそうにない。

 その後も定期的に陣痛に襲われ、次第にその間隔は短くなっていく。そして十分間隔になると、ふたりに付き添ってもらい、待機させていたタクシーで病院へと向かった。
< 215 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop