政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
「頑張れ、俺もついている。あと少しだ」

 弦さんも何度も私を励まし、額に溢れる汗を拭ってくれた。
 そして分娩室に来て一時間が経った頃、その瞬間は訪れた。

「西連地さん、息を吐いて思いっきりいきんでください。赤ちゃん、生まれます」

 助産師に言われた通り、息を吐いて思いっきりいきむ。すると分娩室中に赤ちゃんの元気な産声が響いた。

 乱れた呼吸を必死に整えていると、助産師は生まれたての赤ちゃんを私と弦さんに見せてくれた。

「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ」

 私と繋がったままの生まれたての赤ちゃんは、大きな声で泣き続ける。自分のお腹の中から誕生した命を目の当たりにし、涙が溢れて止まらない。

「ちょっとお待ちくださいね」

 そう言うと助産師は、へその緒を切って赤ちゃんを連れていった。

 呼吸も落ち着き、ずっと手を握ってくれていた彼を見ると、大粒の涙を流していた。

 嘘、弦さんが泣いてる?

 初めて見た彼の涙に驚きを隠せない。

 私の視線に気づいた弦さんは、繋いでいない手で涙を拭った。
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