政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
「ごめん、ちょっと待ってて」

 端に寄って電話の相手を確認すると弦さんだった。

 どうして弦さんから? まだ仕事中だよね? それなのに電話してくるってことは、なにかあったのだろうか。

「未来? 出ないの?」

「あ、うん出るね」

 とにかく出ないと。

 緊張しながら「もしもし」と出ると、優しい声が耳に届いた。

『楽しかったか? 未来』

「は、い。あの、ありがとうございました」

 電話で話しているというのに、頭を下げる私を見て美香はクスリと笑う。どうやら電話の相手が弦さんだと気づいたようで、微笑ましい目を向けられ居たたまれない。

 クルリと背を向けて彼の声に耳を傾ける。

『ひさしぶりに出かけて疲れただろ? 今夜は外食しないか?』

「外食ですか?」

『あぁ。十八時には帰れると思うから、準備をして待っててくれ』

「わかりました。……お仕事、頑張ってください」

 最後にそう伝えると、ワンテンポ遅れて彼に『ありがとう』と言われ胸がいっぱいになる。

 なんだろう、何気ないやり取りなのにそれがたまらなく愛しい。

 通話を切った後も幸せの余韻に浸っていると、背後から感じる視線。

「電話は弦さんからだったんでしょ? なんだって?」

 美香は興味津々に私の肩に腕を回して聞いてきた。
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