政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 でも弦さんはお父さんじゃない。……信じてみてもいいのかな。そうすることで彼の気持ちも、そして私の気持ちも見えてくるのかも。

 一階に着き、ロビーを抜けて外に出ると夕陽が見える。お互い足を止めて向かい合った。

「それじゃ私、地下鉄だからここで」

「今日はありがとう」

「私のほうこそだよ。弦さんによろしく伝えてね。また近いうちに会おう」

「うん、またね」

 手を振って美香は、地下鉄ホームに繋がる階段を降りていった。彼女の姿を見送り、私も最寄り駅へと向かう。

 久しぶりに美香と会えて楽しかったな。それに元気が出た。

「もっと前向きにならなくちゃ……か」

 美香に言われた言葉が、口をついて出た。

 思い返せば私はいつもうしろ向きだったよね。家族ともそうだし、弦さんのことだってそうだ。
 結婚する前は実家から早く出たい、自由になりたいって思っていた。でも実際にはなにひとつ自由になれていないんじゃないかな。

 自由になるってことは、新しい自分になることでもある気がする。色々考えずに、思うがまま生きてみてもいいのだろうか。私でも誰かに愛されると信じてもいい?

 ふと、足を止めて空を見上げた。そろそろ夕陽も沈む頃。
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