政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
「専務は私が奥様をお連れする前に仕事を終えるとおっしゃっておりましたので、すぐにお食事に行けるかと思います」

「わかりました」

 その後は会話が続かず、気まずい。さっき恥ずかしいところを見せちゃったから余計かも。
 ただ窓の外の流れる景色を眺めていると、竹山さんが口を開いた。

「奥様は我が社を訪れるのは初めてですか?」

「はい、そうです」

 一度も弦さんの会社に行ったことがない。会社での弦さんは、どんな感じなのかな。

「そうですか。本日はお見せできませんが、いつか専務の働く姿もご覧になっていただきたいものです。きっと家とは別人で驚かれると思いますよ?」

 それはつまり会社では以前噂で聞いていたように、仕事人間で冷徹ってこと?
 社交の場で何度か見かけていたときのように、ほとんど笑顔を見せない冷たい印象なのかな。

 普段の弦さんしか思い浮かばなくて、仕事中の姿は想像できない。

「機会がございましたら是非。そうでした、お渡しするのを忘れていましたね」

 そう言うと竹山さんは車を路肩に停めた。そしてうしろを向き、私に名刺を差し出した。
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