政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 キョロキョロと見渡せば、一際目を引く人物を視界が捕らえた。

「あっ……」

 視線の先に見えた弦さんの姿に声が漏れる。どうやら電話中のようだ。

「少々こちらでお待ちください」

 竹山さんに言われ、近くのソファに腰を下ろした。弦さんの元へ向かう彼を目で追っていくと、ちょうど電話を終えた弦さんは竹山さんと話をしている。

 そして竹山さんがこっちを見るとすぐに私に気づき、目を細めた。
 一瞬にして変わった柔らかい表情に、ドキッとなる。

 すぐに弦さんは立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。やっぱり彼は目立つ。近くに座っている女性たちが目で追っているもの。

 顔がはっきり見える距離まで、弦さんが近づいてきたところで立ち上がった。

「悪かったな、未来。約束通り迎えにいけなくて」

「いいえ、お仕事お疲れ様でした」

 そんな言葉を交わすと、どちらからともなく笑みが零れる。

「今日は楽しかったか?」

「はい。本当に予約からお支払いまでありがとうございました」

 改めてお礼を言うと、すぐに弦さんは「気にするな」と言う。

「未来が楽しめたのなら、それでいい。今後も自由に出かけるといい」
< 71 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop