政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 しかし私は腰に回された腕が気になって、相手がどんな人かなど見る余裕もない。
 彼に導かれるがままエレベーターを降りたとき。
「姉さん?」

「えっ?」

 すれ違いざまに呼ばれた聞き覚えのある声に、足が止まる。それもそのはず。エレベーターの到着を待っていたのは、敬一と敬一の婚約者、椿ちゃんだったのだから。

「やっぱり姉さんだ! 久しぶり! 元気だった!?」

 私だとわかるや否や、敬一は思いっきり抱きついた。

「まさかこんなところで会えるなんて、夢にも思わなかったよ。嬉しい!」

 興奮冷めやらぬ敬一は、周りが見えていない様子。

「ちょ、ちょっと敬一」

 すぐに引き離そうとしても、さらに強い力で抱きしめられた。

「久しぶりの再会に浸らせてよ」

「いや、でも……」

 敬一のことを知り尽くしている椿ちゃんには見慣れた光景で、呆れている。
 そう、敬一は昔から私に対してこんな感じ。椿ちゃんは理解してくれているけれど、弦さんは……?

 チラッと隣を見れば、弦さんは冷ややかな目で私たちを見ていた。

「敬一、いい加減にして! 弦さんも一緒なんだから」

 彼の名前を口にすると、敬一の身体がピクッと反応をした。そしてゆっくりと私から離れると、笑顔で弦さんと対峙した。
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