政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
「え――」

 目を見開いた瞬間、塞がれた唇。触れるだけのキスはすぐに離れた。

 う、嘘。今、キスをしたよね?

 慌てて周囲を見回すと、弦さんは「大丈夫、誰にも見られていない」と愉快そうに言う。

「たまには一緒に風呂に入ろうか」

「えっ!?」

 たまにはというか、弦さんとは一度もお風呂に入ったことがない。何度か言われたことがあるが、私が恥ずかしくて全力で拒否していた。

「家じゃなければ恥ずかしくないだろ?」

 そういう問題ではないです! と言うように首を横に振る。

 すると弦さんは、「却下」と意地悪な顔で言った。

 エレベーターに乗ってからも、「一緒にお風呂に入るなんて無理です」と拒否し続けたものの……。

「未来、いつまで背を向けているつもりだ?」

「……出るまでです」

 家よりも広いバスタブで、私は弦さんに背を向けて身体を小さくして浸かっている。

 抵抗も虚しく、部屋に入るや否や私は浴室に連れていかれた。そこで強引に服を脱がされ、こうして初めて一緒にお風呂に入ったわけだけれど、とにかく恥ずかしくてたまらない。

 さらに身体を小さくすると、弦さんに背後から抱きしめられた。

 肌と肌が触れ、彼の髪が頬に触れる。
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