政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 救える命があるなら掬いたいと、両親に自分の想いをぶつけた結果は、私の話などしっかり聞いてもらえず、さらにお母さんから嫌われることとなった。

 だけど弦さんは違う。最後まで口を挟まずに聞いてくれた。私の気持ちを理解してくれたんだ。

「ありがとう、ございます」

 涙をこらえ、震える声でお礼を言った瞬間、弦さんはそっと私の頭を撫でた。彼の大きな手が頭上を行き来するたびに、温かな気持ちで満たされていく。

 亡くなったママ以外に頭を撫でられたのは、弦さんが初めてだ。だけどこんな感覚だった?
 温かい気持ちになるだけじゃない、ドキドキして苦しくて、なんとも言えぬ感情に覆われていた?

 ううん、こんな気持ちになるのは私が弦さんを好きだからだ。

 改めて彼のことが好きだと自覚すると、じわじわと恥ずかしくなる。だけど頭を撫でるのを止めてほしくないという矛盾する気持ちに悩まされていると、大きな手が離れていった。

 寂しさを覚えながら顔を上げれば、目が合った弦さんは頬を緩めた。

「じゃあ片づけをして出かけようか」

「はい」

 夜にでも家族との関係を打ち明けようと思っていたけれど、譲渡会に向かう途中で話してみようかな。
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