政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 昔の出来事があるから、さっき弦さんが言ってくれた言葉がとても嬉しかったことも伝えたい。

 ふたりでサンドイッチのお皿とカップを片づけようとすると、弦さんのスマホが鳴った。

「悪い、ちょっと待っててくれ」

 そう言うと弦さんは私に背を向けて電話に出た。

「なんだ? 休みの日に」

 皿を取ろうとした手が止まる。電話に出た実に冷ややかな彼の声を初めて聞いたから。

「それは以前頼んだはずだが。どうして今、そんな状況になっている?」

 厳しく責め立てる弦さん。会社ではいつもあんな感じなのかな?

 電話の邪魔をしないように、静かに皿とカップを持ち、キッチンへと向かう。すると弦さんは深いため息を漏らした。

「わかった。……あぁ、頼む」

 そう言って通話を切った弦さんは振り返り、申し訳なさそうに私を見た。

「悪い、未来。仕事でトラブルが起きた」

「そうなんですね。じゃあ今から会社に行かれるんですか?」

「いや、大丈夫。ただ、これから竹山がうちに来て少し仕事をさせてくれないか? ……譲渡会はその後に行こう」

「わかりました」

 大変だな、弦さんも竹山さんも。休日なのに仕事をするなんて。

「竹山が来たら、俺の部屋に通してくれ。それまで仕事をしているから」

「はい」

 そう言うと足早に弦さんはリビングから出ていった。
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