政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 そして三十分も経たないうちに、スーツ姿の竹山さんが訪ねてきた。出迎えると、竹山さんは申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「すみません、ご夫婦水入らずの時間を割いてしまい」

「いいえ、そんな。お疲れ様です」

 竹山さんを弦さんの部屋に通し、リビングへ戻る。

 お茶を出したほうがいいよね? すぐには終わらないだろうし。

 そう思い、珈琲とクッキーをお皿に乗せて弦さんの部屋へと向かう。できるだけ仕事の邪魔をしないよう、足音を立てずに近づくと話し声が聞こえてきた。

「本当にいい迷惑だ。なぜ俺が副社長の尻拭いをしなくてはいけないんだ?」

「いいではないですか、今回の件で副社長には恩を売ることができますし、なにかとうるさい副社長の取り巻きの上層部も、少しはおとなしくなるでしょう。……と、専務ならおっしゃるかと思っていたのですが」

「それはそうだが、未来との貴重な時間を潰された。ちょうどこれから保護犬の譲渡会に行くところだったというのに」

 弦さんが不機嫌そうに言うと、少しして竹山さんはクスッと笑った。

「なぜ笑う?」

「すみません、専務が保護犬の譲渡会に行くと聞き、その姿を想像したらつい……。奥様とうまくいっているようで、なによりです」

 自分の話をされ、入るに入れない雰囲気だ。いや、それよりも盗み聞きはだめ。そうわかってはいるけれど、ふたりの話が気になる。

 弦さんも私と過ごす時間を楽しんでくれていたのかな? だから不機嫌なの?

 期待に胸が膨らむ。
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