政略夫婦の授かり初夜~冷徹御曹司は妻を過保護に愛で倒す~
 悲しくてつらくて、ポロポロと涙が零れ落ちる。

 私のこの弦さんに対する想いも違うのだろうか。愛されていると勘違いしてしまうほど優しくされたから、それが嬉しくて好きだと錯覚しているだけ?

 自分の気持ちさえわからなくなる。

 その場に崩れ落ち、私は声を押し殺して泣いた。

 一時間ほどして竹山さんは帰っていったが、私はとてもじゃないが弦さんと出かける気持ちになどなれなかった。

 体調が悪くなったと嘘をついて譲渡会に行くのを断り、この日は早々と寝た。そしてこの日を境に、私は弦さんの顔をまともに見られなくなってしまった。


「それじゃ未来、行ってくる。留守の間、なにかあったら連絡してくれ」

「はい、わかりました。……気をつけて行ってきてください」

 週が明けて三日目の朝。弦さんは朝早くに家を出て、ニューヨークへと発つ。仕事のトラブルを解決するため、二週間の予定で出張が入ったのだ。

 彼が出ていった玄関のドアを眺めながら、ホッとする自分がいた。

 弦さんが私と両親の関係を知っていたと思うと、彼とどう接していいのかわからなくなった。

 どんな言葉をかけられても、私が可哀想だからこう言ってくれているだけなんて、ひねくれたことを考え、素直に受け取ることができない。
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