同期の御曹司様は浮気がお嫌い
私は小会議室から1時間以上出られずにただ座ってスカートの茶色いシミを眺めていた。隣からは奥さんの怒鳴り声と泣き声が交互に聞こえる。
泣きたいのは私の方だ。浮気相手と罵られ突き飛ばされた。まだお尻が痛い。
浮気相手は私じゃなくてあの女性なのに……。
入籍してしまったら私の方が先に付き合っていても浮気相手にされてしまうのか。なんて理不尽なんだ。
コンコン
小会議室のドアがノックされた。やっと私の尋問の番かと思ったけれど、入ってきたのは優磨くんだった。
「大丈夫?」
優磨くんの優しい顔に堪えていた涙が溢れそうになる。
「お昼食べてないでしょ? おにぎり食べる?」
優磨くんはテーブルの上にコンビニの袋を置く。中にはおにぎりが2個とペットボトルのお茶が入っている。
「ありがとう……でもいいの? 入ってきちゃって」
「安西さんを出すなとは言われたけど、入るなとは言われてないから」
何も問題ないという顔で笑う優磨くんに笑い返す。笑い返せるほどには心に余裕が出た。
「ありがとう……」
お礼を言うと隣からまた泣き声が聞こえた。
「まったく……あいつを殴っとけばよかった」
私の代わりに下田くんに怒ってくれる優磨くんの存在に助けられる。
「俺も社長に言うから。安西さんは下田が結婚したのは知らなかったって」
「うん……」
その時再びドアがノックされ上司が隣に来いと私を促した。
「行ってくる……」
「うん。頑張れ」
優磨くんに見送られ隣の大会議室に入ると、下田くんと奥さんの姿はなく、社長一人しか座っていなかった。
社長と向かい合うと私は必死に訴えた。ずっと前から下田くんと付き合っていたし、結婚していると知らなかったと。