同期の御曹司様は浮気がお嫌い

私の顔なんて見たくもないし、声も聞きたくないだろう。手を振り払うくらいに拒絶されている。

「一度優磨さんの様子を見ていただきたいのですが」

「え……」

「遠くから見るだけで構いません。話さなくても結構です。一度波瑠様に今の優磨さんの状態を知ってほしいのです。正直に申し上げると私では今の優磨さんは手に負えません」

「…………」

あの泉さんが手に負えないなんて、優磨くんはそんなに大変なのだろうか。

「分かりました……」

泉さんにこんなお願いをされるなんて意外で、つい了承してしまった。





様子を見るのに指定された場所は優磨くんの会社の前にあるカフェだった。正面玄関を出入りする人がはっきり見えるこの場所で、まるで探偵にでもなった気持ちで優磨くんを待っている。

前もって泉さんに言われていた通りの時間に車が会社の前に停まった。
後部座席から降りてきた優磨くんを見た瞬間驚いた。二週間ぶりに見た彼は伸びた髪を整えることもなく、寝ぐせなのか後ろ髪が跳ねている。

駐車場に向かう泉さんの車を見送る彼は痩せたように見える。道路の向こうからでもわかるほど顔色が悪く俯きがちだ。体調が悪いのだろうか。

会社に入るときに突然つまずいた。段差でもないところで転びそうになるなんて優磨くんらしくない。いつも完璧に身なりを整えて隙を見せないように仕事に行くのに。

泉さんが駐車場からこっちに歩いてくる。カフェに入ってくると私の前に座った。

「おはようございます。わざわざすみません。優磨さんをどう思いましたか?」

「あの……いつもと違う印象でした……」

別人のようにだらしなく見えた。確かにあれでは泉さんも戸惑うだろう。

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