同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「私の言葉を信じるって言ったよね。優磨くんから気持ちが離れた。私に会いに来ても無駄だよ」
「っ……」
優磨くんの瞳が揺れた。目が潤んでいるような気がする。でもここまで言わないと彼も前に進めないから。
「それでもいい」
「え?」
「気持ちが離れてもいい。また好きになってもらえるように努力する。俺が波瑠の顔を見たいから来るよ」
「でも……」
「おやすみ波瑠」
そう言って一歩近づかれると、反射的に一歩下がった。
複雑な顔をする優磨くんに私も焦る。避けたくて避けたわけじゃない。でも手を振り払われた記憶は消えない。触れた瞬間また優磨くんに拒絶されるのではと怖くなるのだ。
「波瑠を愛してる」
悲しそうな表情でそれだけ言って優磨くんは車に乗り込んだ。車内から私に手を振って駐車場から走り去る。
『愛してる』をどう受け止めようか戸惑っている私を残して。
優磨くんは本当に毎日マンションまで通ってくるようになった。
私の帰宅を待って植え込みの前に座っているときもあれば、休みで家にいるときにチャイムを押すこともあった。
優磨くんが仕事で遅い時はチャイムを鳴らさずに郵便受けに手紙を入れてくれることすらある。必ず末尾に『愛してる』と綺麗な字で書いてあるのだ。
「もう来ないでって言ったでしょ」
この日もいつも通り玄関先でそう言っても「波瑠の顔が見たいだけ」と譲らず帰ろうとしない。
「生活に不自由してない? 何かいるものある?」
ドアから中を覗こうとするので焦る。優磨くんのマンションの部屋に比べたらここは安くて狭いから恥ずかしいのだ。
「大丈夫! 私は一人で平気!」