同期の御曹司様は浮気がお嫌い

「優しくて……イケメンだよ……」

「それから?」

「え……」

「他は? 波瑠はそいつのどこが好きなの?」

私への質問をやめる気はないようだ。

「えっと……仕事に一生懸命で……でもいつも私のことを一番に考えてくれて……」

「それだけ?」

「もういいでしょ!」

顔を真っ赤にすると「帰って!」と怒った。それでも「ほんとに彼氏できたの?」と聞いてくる。

「私の言葉を信じるって言ったでしょ?」

「そうだね……」

優磨くんは困ったように笑った。

「俺よりもそいつのこと好き?」

「大好き! だから帰って」

「波瑠に想われてるそいつが羨ましいよ」

胸がぎゅっと締め付けられる。

「じゃあ明日も来るね」

「え? だから来なくていいから!」

嘘彼氏の話をしたら諦めると思ったのに、何事もないようにまた来るのか。

「彼氏いるんだってば……来ないでよ……」

「愛してる」

「っ……」

「波瑠に新しい恋人がいるとしても、俺は波瑠を愛してる」

「そんなの同じじゃん……」

何度も私に会おうとした下田くんと同じではないか、と言いかけてやめた。優磨くんも言いたいことは分かったのか複雑な顔をして、それでも精一杯笑う。

「波瑠の顔が見れるだけで嬉しい。だからまた来る。本音は、彼氏と別れて俺のところに戻ってほしいって思ってる」

本当に下田くんと同じだ。あれほど責めた彼と優磨くんは同じことをしようとしている。

拒否する言葉が言えなくなる。だって私も優磨くんを愛している気持ちは変わらない。それでもまた嫌われるのが怖くて戻れない。私を拒否するあの顔を忘れられない。

優磨くんの手が私に向かって伸びるけれど、ビクッと思い出したように止まってまた下がる。私に触れたいのに自分で「触るな」と突き放した手前できないのだろう。

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