同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「じゃあね。また明日。愛してるよ」
優磨くんは今日も『愛してる』を残して帰っていった。
自分が子供で嫌になる。優磨くんに愛されて幸せなのに、失うことを恐れて素直になれない。
私に彼氏がいるという嘘を信じて、このままどうか諦めて私の前に現れないでほしいのに。
退勤後にお店でパンを買う。お客様にお勧めできるように店の商品は全部食べて味を確認しておきたい。今日買った分で全制覇だ。
「波瑠さん、優磨はこれが好きだよ」
社長である慶太さんがコロッケパンを指した。各店舗を巡回している慶太さんに会うのは採用してもらったとき以来だ。私が優磨くんの分もパンを買って帰ると勘違いしたようだ。
慶太さんはまだ私と優磨くんが一緒に住んでいると思っている。そういえば引っ越したことを会社に言い忘れていた。けれど今慶太さんに言える雰囲気じゃない。
きっと今夜も優磨くんが来る。仕事終わりでお腹が空いているかもしれないから、パンを差し入れようかなと思った。
「これと、あとこれも。優磨が中学のころから特に好きだったやつ」
「中学生の頃から知り合いなんですか?」
「優磨は一号店の近くにある私立中学に通っていたんだけど、学校帰りによく買いに来てくれたんだよ。城藤の人間じゃ惣菜パンなんて珍しかったんだろうね」
「中学生の優磨くんは可愛かったんだろうな」
「今は生意気だけどあの頃は可愛かったよ。パンのショーケースを穴が開きそうなほど見てた。だからこれを買っていけば今夜の晩ご飯は満足するよ」
曖昧に笑って誤魔化し、優磨くんのパンも買って店を後にした。
マンションの前には思った通り優磨くんがいた。