同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「そう……そうだよね……」
別れる前にクリスマスの予定についてなんとなく話したことがあった。二人で過ごす初めてのイベントを優磨くんが楽しみにしていたことを思い出した。けれど私たちがクリスマスを一緒に過ごすことはなくなってしまったのだ。
「もう部屋に戻るね」
私はまだ食べ終わっていないパンをビニールに包み、車から降りようとカバンを持った。
「波瑠、明日は仕事?」
「うん」
「じゃあ明日も来るね」
それにどう返事をしようか迷う。嫌がっても優磨くんは何度だって通ってきてしまう。
困っている私に優磨くんは微笑む。
「俺が勝手に会いに来るだけ。おやすみ」
私は頷くとドアを開け外に出た。
「波瑠、愛してる」
いつもの熱を込めて『愛してる』と言う優磨くんの視線に耐えられなくてすぐにドアを閉めた。今夜も車内から手を振って優磨くんは帰っていった。
その『愛してる』が変わらない保証はどこにあるの? 私はいつまでも不安になってしまうから、もうお互いがお互いを解放するべきなんじゃないの……?
◇◇◇◇◇
新規オープンして間もないパン屋の店内は可愛い装飾が施されているけれど、クリスマスが近づくともっと飾りに力を入れることにした。退勤後にスタッフとして働いている大学生の男の子と同じ施設内にある雑貨屋に飾りを買いに行く。
「僕こういうセンスないから何がいいのか分かんないです」
「私も苦手……こういうのは? レジの横に置くの」
手当たり次第にサンタの置物やキラキラした飾りを手に取る。
ああでもないこうでもないと相談しながら、慶太さんがくれた予算の中でいい飾りが買えた。
雑貨屋から出ると「波瑠?」と名を呼ばれた。見ると優磨くんが不機嫌な顔をして雑貨屋の前に立っている。