同期の御曹司様は浮気がお嫌い
お酒に弱いので一杯のカクテルでも酔ってしまった私は、転ばないようにフラフラしながらもゆっくり歩く。それを見かねた優磨くんが手を握ってきたから驚いた。
「危ないから。女の子はヒールで大変だね」
そう言って道路に出ても手を放さない。
「優磨くん……手、もう大丈夫だよ」
「心配なんだ。倒れそうになったら支えられるから」
私の顔を見ないまま答える。
優磨くんが何を考えているのか分からないからもう体調は大丈夫だと言えなくなる。手から伝わる体温が心地良くて、このままでもいいかと思ってしまう。
「私のアパート、ボロいんだけど驚かないでね……ここです」
「え……」
アパートを見た優磨くんは目を見開いた。それもそうだろう。このアパートは築年数を知りたくないほどボロくて壁は汚れているし、錆びた階段の下には雑草が伸び放題だ。隣人の生活音も聞こえるほど壁が薄い。
「さすがに引いた?」
「いや……うん……」
城藤財閥の御曹司の家とは天と地ほどの差があるに違いない。
「今日はありがとう。ごめんね……色々と私のダメなところを見せちゃって」
「安西さんはダメなんかじゃないよ。ムカつくよね、下田が悪いのに……」
優磨くんは心底嫌そうな顔をする。きっと今彼の心の中で下田くんはボコボコにされているのだろう。
「送ってくれてありがとう」
私の言葉に優磨くんはやっと手を放す。
「お疲れ様。また連絡するから」
「うん」
心配してくれる気持ちは嬉しい。でもきっともう優磨くんには会わないだろうと思う。
彼は大企業での大事な将来があるのに、優しいからどん底の私を放っておけないだろう。このまま距離を置かないと。
ありがとう、さようなら。
私はアパートの階段を上りながら、歩いていく優磨くんの背中に別れを告げた。