同期の御曹司様は浮気がお嫌い
会社に行かなければと思うとお腹痛いかも……。
胃のあたりがキリキリ痛む。駅が見えてきたところでめまいがして立ち止まった。
気持ち悪い……吐きそう。
少し休もうとベンチを探して辺りを見回すと優磨くんが走ってくるのが見えた。
「え? 何で?」
近づいてくる優磨くんは怒っている。
鍵かけないで出たこと怒ってるのかな……。
「安西さん!」
足の力が抜けて倒れると思ったとき体を優磨くんに支えられる。
「なんで無理するんだ! どうして勝手にいなくなるんだよ!」
怒っている優磨くんとは対照的に私は優磨くんに怒られるなんて新鮮だな、なんて思ってしまった。
「あはは……」
もう笑えてくる。御曹司に怒られたことに。恋人に浮気されていたことに。会社が怖い自分に。弱いところを見せても追いかけてきてくれる優磨くんに甘えてしまう自分に。
「やっぱ体調悪いでしょ……顔がやばいから」
「顔がやばいのは27年間ずっと自覚してるから」
綺麗な顔の優磨くんに罵られても今はあんまり傷つかない。これ以上私の心は傷つきようがない。
「顔色がだよ! いいから来て!」
優磨くんに手を引かれ道路に停められた車に乗せられる。今度は運転手がいないので、優磨くんが自分で運転してきたようだ。
そのまま再びマンションに連れ戻され、車は地下へと通じるスロープを徐行して下りていく。空いたスペースに停めると優磨くんは車から降りて助手席に回るとドアを開けてくれた。
「部屋に戻って」
「戻れないよ。甘えられない」
「安西さんて意外と強情だね」
そう言うと私にキーケースを押し付けた。