同期の御曹司様は浮気がお嫌い
私は受付を通り過ぎエレベーターに乗った。
25階に行くと、言われた通り目の前の曇りガラスのドアを開けた。
「失礼します……」
「はい」
すぐ近くの女性がデスクから立ち上がり私のそばに寄る。
「安西と申します。城藤優磨さんにお届け物があるのですが……」
女性は驚いた顔をして「こちらにどうぞ」と奥の応接室に通される。
今は定時を過ぎているはずなのにフロアには社員が残っていて、男女問わず訪ねてきた私に視線を向ける。
「こちらでお待ちください」とガラスで仕切られた部屋に座るよう促された。
女性が退室してもガラスの向こうの社員は私を盗み見る。それがとても居心地が悪い。
数分待っていると先ほどの女性がお茶を持ってきた。
「ありがとうございます」
テーブルにお茶を置くときも女性は至近距離で私の顔を見る。
「失礼いたしました」
私に向かってそう言った女性が出て行くと緊張がピークに達する。封筒を届けるだけなのにどうしてこんなに辛いの……。
更に数分待つとフロアのドアが開き、優磨くんが数名の社員と共に入ってきた。その顔は普段見ることのない機嫌の悪そうな顔をしている。ガラスで仕切られた応接室に私がいることに気付いていないようだ。
フロアの声は私には聞こえないけれど、どうやら優磨くんはそばにいる社員と言い争っているようだ。
タイミングの悪い時に来てしまったかもしれない……。
怖い顔をしている優磨くんに先ほどの女性が近寄り声をかけると、優磨くんは私の方に視線を向けた。そして驚いたように目を見開く。それを見て手を振りそうになったのを堪える。
優磨くんは社員をフロアに残して早足で私のいる部屋に近づいてきて、ドアを開けて入った途端に勢いよく閉める。