同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「おはよう」
声をかけるとまだ寝ぼけ顔の優磨くんは私にキスをして掠れた声で「おはよう」と囁いた。
先にシャワーを浴びると、続いて優磨くんが浴びている間に洗濯機をかける。朝食を作り終わると洗濯が終わった音が鳴る。
洗ったばかりの服を入れた洗濯カゴを持ってバルコニーに出て干す。
優磨くんの部屋は高い階にあるから、見下ろす人や車は全て小さく見える。最寄り駅に電車が到着したのが見えた。人がどっと電車から降りてまた乗っていく。
少し前の私はあの中の一人だった。今はこうやって毎日のんびり生活させてもらえてありがたい。
優磨くんに甘えて贅沢させてもらっているけれど、やっぱり仕事したいなあ……。
正社員にこだわらず少しずつバイトでもしようかな。営業や事務だけじゃなくて接客もやってみたいかも。
「波瑠、電話だよ」
中から優磨くんが私のスマートフォンを持って顔を出した。
「え、電話?」
受け取った画面には『公衆電話』と表示されている。
「こんな時間に公衆電話?」
「出た方がいんじゃない?」
優磨くんはそう言うけれど、朝早く公衆電話から着信があるなんて不審で出るのを躊躇う。迷っているうちに着信は切れてしまった。
「急用だったかもしれないけど大丈夫?」
「うん……多分」
「実家からとか?」
「ううん、私の実家は固定電話あるし……」
「今時公衆電話からかけてくるのも珍しいから間違い電話かもしれないしね」
優磨くんはそれだけ言うと出勤の準備を始める。
もう一度電話がかかってくる様子はない。急用ならば留守番電話にメッセージを入れるだろうけどそれもない。
なんだか嫌な予感がした。