同期の御曹司様は浮気がお嫌い
「ああうん……大丈夫。ありがとう……優磨くんがいてくれてよかった……」
「どういたしまして」
綺麗な顔で笑いかける優磨くんに安心する。
入社前の研修で初めて城藤グループの関係者に会った時は緊張したけれど、優磨くんは家の環境を気にさせないほどフランクで庶民的だった。だから私は他の同期と同じように接してきた。でも今日の彼は今まで見たことないほど怖くて驚いた。
「立てる?」
「うん……」
立ち上がった優磨くんが手を差し出してくれたから私は素直にその手を掴んで立ち上がる。
店の社員に合流すると、優磨くんと二人で抜け出していたように見えたのか何人かに複雑な顔をされた。
私は何事もなかったかのように笑っている下田くんに怒りすら湧かなくなっていた。
◇◇◇◇◇
夜中に下田くんから電話があったけれど、出ることができずに折り返すこともしていない。私は完全に混乱していた。
翌朝出社すると気まずそうな顔をする下田くんに「おはよう」とだけ普通に朝の挨拶をした。口をパクパクと動かして何か言いたそうにする彼に対して私は顔のパーツ一切が動かない。まるで感情がなくなってしまったかのようだ。
「波瑠……話したい。時間くれない?」
「何も聞きたくない。昨日別れてほしいって言ったのは下田くんだよ。だからそれでいい……」
「別れてほしいんじゃない。とにかく話したいんだ!」
「もういいって……私は身を引くから……」
引き留めようとする下田くんの横を抜けて離れる。今冷静に話ができる心境じゃない。
人事部から社内全員に一斉メールで下田くんの結婚の報告が送られてきた。何かの間違いではなく本当に下田くんは私ではなく違う女と結婚してしまったようだ。私たちの4年間はあっさりと終った。