同期の御曹司様は浮気がお嫌い
退職して会社関係との縁は切れたし、友人との交流も少ない私に連絡をしてきそうな人物は悲しいことに今では下田くんしか思いつかない。
電話もメッセージも無視するだけじゃなく、一切連絡してこないでと言うべきだろうか。もう下田くんの声すら聞きたくないのに。
衣類を干し終わって部屋の中に戻ると優磨くんは既にスーツに着替えて髪も整えていた。
「波瑠、夜は何で来るの? タクシー?」
今夜は延期になっていた退職のお祝いで外食する約束をしていた。
「タクシーなんてもったいないよ。電車で行くね」
「電車はダメだって。帰宅ラッシュで混むよ」
「でも電車の方が早いし、混む方向とは逆だよ?」
「それでも、波瑠には電車に乗ってほしくないの」
優磨くんは私の前に立って頬を両手で包む。
「波瑠が心配だからタクシーで来て。カード使っていいから」
優磨くんは妙に心配性なところがある。毎回呆れるのだけれど、それで安心するならそうするべきなのだろう。
「分かったよ。タクシーで行くね」
「泉さんに迎えに来てもらおうか?」
「それはもっとダメ! 泉さんは優磨くんの秘書だけど、私はそこまでのことをしてもらうわけにはいかないから」
それに、泉さんを呼ぶと美麗さんがセットでついてきてしまう気がしている。美麗さんは悪い人ではないけれど、今夜は優磨くんと二人で過ごしたい。
「夜を楽しみにしてる。いってきます」
「いってらっしゃい」
お互いに顔を近づけて毎朝お決まりのキスをした。
鏡の前で自分の姿を念入りにチェックする。
優磨くんに買ってもらった服の中で彼が一番好きだと言ってくれたものを着て、髪を合わせてセットする。