同期の御曹司様は浮気がお嫌い
店舗オープンのビラ配りの手伝いをするために商業ビルに行くと、先に着いていた下田くんは店頭で試飲用のコーヒーを提供していた。
私が店に近づくと気づいた下田くんは紙コップを載せたトレーをテーブルに置いて慌てて近づいてきた。
「悪いな、来てもらって……」
「仕事だし」
抑揚のない声音で答えた私は下田くんの横を抜けてテーブルの下に置かれた段ボールからビラの束を取った。
「波瑠……俺は本当に結婚するつもりはなくて……」
「こんなところでやめて」
ここは会社の店の前で、商業施設の中だ。暗い話なんてできないし、したくもない。
「マジで妊娠は予想外で……俺は波瑠が今でも……」
「やめてって!」
下田くんの言い訳を強引に遮る。
「あのさ、俺らのことって優磨以外誰が知ってる?」
「さあ、誰も知らないんじゃない?」
私たちが付き合っていたことは会社では言わないようにしていた。同期である優磨くんにも言ったことはないけれどなぜか知っていた。
「そっか……じゃあこのまま言わないで」
「え?」
「俺たちが付き合ってたことは誰にも言わないで。その……困るから……」
下田くんの言葉に私は静かに怒りが湧く。私との関係がバレると下田くんには迷惑なのだ。浮気していたのは下田くんの方なのに、これでは私が悪いことをしたようだ。
優磨くんの顔が浮かぶ。彼の言うとおり今の下田くんは『クソ野郎』だ。
「言わないよ。そっちももう関わらないで」
下田くんと付き合ったことは無かった事にしょう。結婚を意識したことはなかったけれど、この人と結婚するのが私じゃなくて良かったとさえ思う。
「俺はまだ話が終わってない……」
「浩二!」
突然声が割って入る。声のした方に顔を向けると女性が私と下田くんを見て怒った顔をして近づいてくる。
「なっ……絵里……」